SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

マリアビートル

[著者:伊坂幸太郎/角川書店]

 『グラスポッパー』の続編。とは言え、ひとつの物語として独立していて、舞台背景や一部の登場人物などが共通した後日の話です。

 今回は東京→盛岡間の新幹線内での騒動で、様々な登場人物達の視点と思惑が複雑に絡み合って進んで行く様子は、前作の構図をそのまま引き継いでいる感じでした。

 確実に違うと言えるのは、新幹線内での『逃げ場のない閉鎖空間』と言う所でしょうかね。追って追われて、逃げて逃げられ、みたいな“簡単に遭遇しそうでなかなか衝突しない”面白さともどかしさが同居するような、そんな印象でした。

 個人的には、終始胸くそ悪いクズ王子に対して「早くざまぁされねえかなあ」って眺めてました。何となく、意識的に読み手側にそう思わせるよう誘導しているような、嫌悪感が増し続ける王子の描写はなかなかのものでした。

グラスホッパー

[著者:伊坂幸太郎/角川書店]

 『押し屋』なる謎の人物の行方を追って、『鈴木』『鯨』『蝉』の3人の主要人物の様子が描かれて行く。それぞれの状況・立場はバラバラで、最初はハッキリ掴めないまま彼らの行動と行方を追っている感じでした。

 それが中盤以降、ほんの些細なきっかけから共通の繋がりが出て来て、加速度的に接近・交わりを見せて行く。各自の状況を掴むまでは正直もうひとつ乗り切れない気持ちで読んでいました。

 ただ、次第に引かれ合うように、互いが影響を与え合いながら近付くに連れて、面白さも一気に増して行くような手応えでした。先に敷いていた伏線なんかも「そう言う事だったのか」と、終盤でその気付きにスッキリさせられる場面も多かったですね。

 個人的には『鯨』が一番好みで興味を引かれる人物でした。霊が憑りついている、ささやきかけている、そんな彼の状態の異質さって言うんでしょうかね。そう逝った所が強烈な印象として頭に残ったのだと思います。

勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録IV

[著者:ロケット商会/イラスト:めふぃすと/電撃の新文芸]

 前巻からの続きで、反撃の第二王都奪還戦。

 どうやっても準備不足な行動にならざるを得ない様子や、魔王現象との戦いが生死ギリギリの綱渡り状態なのは相変わらず。

 そして、自分勝手な連中でやりたい放題やっているように見えながら、敵対存在の殲滅の為にほぼ完璧な連携が取れてしまう辺りも、いつも通りでさすがとしか言いようがない。

 一応、第二王都奪還の決着まで進みましたが、色々と問題の火種が残る結末で、全てスッキリとは行かなかった印象。

 魔王現象の生き残り達が奪った『2神の女神の遺体』の事や、魔王現象アバドンが言っていた『魔王の中の王』の存在と目的などは、まだ詳細が見えないだけ余計に気になっています。

 あと、懲罰勇者部隊が新たな『聖女』の直属の守護役とした配置された辺り、今後の展開次第で色々と揉めそうですよねえ。

既刊感想:IIIII

勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録III

[著者:ロケット商会/イラスト:めふぃすと/電撃の新文芸]

 第二王都からの魔王現象軍の進撃阻止防衛戦。

 ザイロが指揮官っぽい役をこなし、クセの強い懲罰勇者達の繋ぎ役も嫌々引き受けながら、最前線で魔王現象に闘いを仕掛けて突っ込んでゆく。

 全てが上手く回るような『潤滑油』的な役割、別の言い方すると非常に使い勝手と都合の良い人材、となるわけで今回も彼の並々ならぬ気苦労が最大限に感じられる内容でした。

 ほぼ制御不能な同胞達を必死でまとめ上げようとしているのは、そうしないと『あらゆる意味で自分自身が終わるから』が一番の理由なんでしょうけどね。

 ザイロって基本的には態度が劣悪でも“お人好し気質”なのは隠し切れてなくて、でもそう言う気質を他の懲罰勇者達も充分に理解しているからこそ、色々ごちゃごちゃ口出ししながらも信頼しているのかなあと。

 そんな風に思えたのは、今回もかなり後手後手の厳しい状況に陥りながら、土壇場での妙な“団結力”の発揮を強く感じたから、でしょうかね。

既刊感想:II

乙女ゲームのヒロインで最強サバイバルVI

[著者:春の日びより/イラスト:ひたきゆう/TOブックス]

 主人公不在の魔術学園編。じわじわとアーリシア(偽ヒロイン)の男に媚びた『毒』が、ターゲットに定めたダメ男達を侵食して行く。エル王子も本気で慕ってくれているクララの気遣いの言葉も聞く耳持たない様子なので、もう駄目だこりゃって感じです。

 とは言え、別に大した能力も持っていなさそうな虚像の小娘が足掻いた所で一体何が出来るのか、と疑問視する所もありました。女に対する憎悪と、男に対する媚びた執着の歪みっぶりがとにかく凄いんですけど、その歪んだ感情の強さが特異な力を覚醒させるのか。

 あの異常女のカルラに対しても怯えた様子は見られず、常に自分のペースを崩さない辺りに強烈な危険性を感じてしまいます。終盤で男どもを言いくるめて『加護』を得ようとする動きが見られました。もしこの企みが成功したら……アリアとエレーナ早く帰って来てー!

既刊感想:IIIIIIV