SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

ティアムーン帝国物語VIII ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~

[著者:餅月望/イラスト:Gilse/TOブックス]

 ミーアの周囲が勝手に彼女の思考を深読みして、何故か自体がことごとく好転する度に「ミーアって、結局は愚かで無能なんじゃね?」と疑問に思ってしまう。

 結果よければすべてよし、ではあるものの、割と『幸運』が味方になっている事が多いのも事実で。それがミーアらしいと言えばらしいんですが、彼女自身の意思が働いてない所はどうしてもモヤっとさせられてしまいます。

 とは言え、全く思いもしない事を唐突に告げられた後の的確な機転の利かせ方は、やっぱり過去の経験からの成長が築き上げた『才覚』なのかなあ、と思ったりもするんでよね。

 ……と言った事を頭に浮かべながらの今回。相変わらずころころ内容が変化する皇女伝に翻弄されつつ、シオン暗殺の未来予想から色々な事が複雑に絡み出している。これらの問題が、ミーアの立ち回りで一挙解決となるか? いつも土壇場で発揮する『本物の叡智』に期待したいです。

既刊感想:IIIIIIVVIVII

スキマワラシ

[著者:恩田陸/集英社]

 不思議な現象が何となく最後まで不思議なまま残り続けたように思った所で、微妙な曖昧さだったと捉えるべきなのか、この物語の雰囲気に相応しい余韻と捉えるべきなのか、読了後にちょっと判断に迷う所でした。

 結局ハッキリ分からなかったのは、スキマワラシは何故“この人”を探していたのか、この探し人に対してあのような行動を取ったのか、について。なにか途中でそれらしき事が語られてたかなあ……うーん。この辺は、どこか読み込み不足だった事を疑ってみた方が良いのかも知れません。

 一方で、兄弟の両親の事、散多が感じていた『見知らぬ姉』の気配の事、ついでに散多が気にしていた名前の由来について、などはハッキリ答えが出てくれたのでスッキリ出来て良かったかなと。

新任警視(下)

[著者:古野まほろ/新潮社]

 上巻と同様か、むしろそれ以上に、警察署内の組織・役割・内部関係などに重点を置く描写の数々は、ノンフィクションかと間違うほどに非常にリアリティあふれるものでした。

 ただ、これも上巻と同等に、序盤で提示された『前任警視の不審死』の問題になかなか接点が見えない所で、もどかしさを感じてしまう気持ちもありました。

 『警察VS実態の知れないカルト教団』みたいな緊張感が増す探り合いも展開されるものの、「これがどう収束して行くのだろう?」みたいな疑問を長く持ち続けていたので、個人的には結構じりじりと我慢を抱く読書だったのは正直な所です。

 しかし、ここから一挙にてのひらを返すかのごとく、真相語りに突入してからは印象が一変してしまいました。

 物語の二転三転からの、複雑に張り巡らされた伏線の完璧なまでの回収の数々、お見事としか言いようがありませんでした。最後まで読み終えて、まさに『圧巻』の一言です。

既刊感想:

新任警視(上)

[著者:古野まほろ/新潮社]

 前任警視の不審死の謎と、その殺人事件に関わるカルト宗教団体の実態と闇に、新任警視の司馬が挑む。

 ……とは言え、この上巻ではラスト付近までほとんど事件に関わる描写がなく、加えて事件の進展も事件の謎やカルト宗教の実態に迫るでもなく、早い展開を望むとすれば結構な足踏みを強いられる事になります。

 じゃあ一体何が語らていたのかと言えば、司馬が着任した警備課を始め、警察署内の役職・役割分担・部署内間の関係・人間関係……などの警察署の実態を、とにかく設定の細部に至るまで説明し尽くす、と言ったものでした。

 あとは司馬の警視としての立ち振る舞いや、『責任を負う』と言う心構えなどの気持ちの揺れ動きにページが割かれていた印象です。

 まあとにかく「なかなか事件の本質に辿り着かないなあ」って気持ちでしたが、この警察署内の圧倒的物量の描写が、下巻で触れられるであろう事件解明に大いに影響を与えてくれる事に期待したい。

ティアムーン帝国物語VII ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~

[著者:餅月望/イラスト:Gilse/TOブックス]

 ルードヴィッヒの『ミーア様思考』に対する裏読み&深読み力、今回はいつにも増して冴えに冴え渡る! その真相は“とんだ見当違いの勘違い”なわけですが、その深読み間違いがミーアにとってことごとく好転してくれるものだから、この物語は面白過ぎてやめられない。

 特に今回は、帝国に虐げられ続けて来た農業国の王との交渉の真っ只中だったので、ひとつ選択を間違えば破滅へとまっしぐらな展開もあり得たわけですよ。

 そうならなかったのは、ルードヴィッヒの奇跡の深読みもありましたが、何よりミーアがこれまで(偶然の連続で)築いて来た『信頼』が大きな影響となっていた事は間違いないですよね。

 そこは“過程はどうあれ”ミーアの実績である事は揺るぎない事実で、事態が次々と好転して行く様子に思わず嬉しくなったりしました。

既刊感想:IIIIIIVVI