SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

ぼくのメジャースプーン

[著者:辻村深月/講談社 講談社ノベルス]★

 同著作『凍りのくじら』に登場した失語症の少年・郁也との絡みで、たったワンシーンだけ姿を見せていた“ふみちゃん”。利発だった少女が何故感情と言葉を失い精神的な病に侵されてしまったのか? そこまでに至らしめたショックとは一体どのようなものだったのか? 全ての事実はこの物語の中に。そして、ふみちゃんの心を壊した異常者への復讐の為、自分の中に在る危険な“魔法”の力を振るおうとする『ぼく』の物語。

 ぼくと秋先生との魔法の力に関する様々な対話。読んでいて最も惹き込まれた部分がここ。容易に裁けない悪を断罪すべく、まるで経験値を溜めるかの如く知識を吸収しレベルアップしてゆく。不意に忘れがちになってしまうけど、この主人公のぼくって小学四年生なんだよな。いい歳した大人(私の事だけど)が文章読んで噛み砕いて何とか先生の授業を理解しようとしてるってのに、この少年は直接会話の中から言葉を拾い上げ脳に吸収してちゃんと理解が出来ている。凄く聡明で、他の誰よりも天才肌なんじゃないかなぁ?

 終盤、息を呑んで見守る対決。やっぱり、こんな風に頭が回る辺り、全く小学四年生っぽくないわ〜。……それでも、彼の行為でふみちゃんの心は救われたに違いない。最後の最後でそういう兆しが見て取れたんだから、絶対大丈夫。そう思い信じていたい。