[著者:翅田大介/イラスト:も/HJ文庫]★★★
カッティング(Case of Tomoe)
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翅田大介 ホビージャパン 2007年12月
シリーズ第2巻。明るみに出たのは、秘密裏に行われている不老不死研究が『idea』という組織(らしきもの)の手によるものだと言う事。ただ研究の経過や結果を“見る”事だけが目的であり、得られた結果を何らかの欲望の為に悪用しようとする意思も何も存在せず、本当に“見る”だけが欲望と言える。……これは非常に性質が悪く厄介な代物。
彼らにしてみれば、それを望む者に技術を提供し、経過や結果を“見続ける”だけが目的で、それ以上でも以下でも何もない。その一方で、研究の影響に悩み、苦しみ、惑い、痛み、叫びを上げる人達(犠牲者と言っていいのかも知れない)も存在している。なのに現状では潜伏して見ているだけの相手をどうにも出来ない。だから性質が悪く厄介。
前巻の肉体への自傷行為に対し、今回は心への自傷行為。自分に嘘を吐き自分を偽りながら、その実自分自身の存在そのものが偽りである事に気付けずにいる。そんな偽りだらけの中で、正しいものを求め、それで偽りを上書きして塗り潰してゆこうとする。
ケイイチロウとトモエ。二人ともぐらぐら揺れる精神バランスで歩き続けて、ようやく掴んだこの結末には心底ホッとさせられた。ただ、影響を受けたせいでついた“傷跡”はどうしても残ってしまう。幸せな結末でも素直に喜べなくて複雑な気分に陥ってしまうのはこの辺りが原因。やっぱり根源が潰えない限りはどうにもならんのだろうか……。
既刊感想:カッティング 〜Case of Mio〜