SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

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君のための物語

[著者:水鏡希人/イラスト:すみ兵/電撃文庫]★★

 第14回電撃小説大賞『金賞』受賞作。

 こう、前面にどんどん押し出して押し広げたら物語を構築し易そうだなぁ、という設定が割と目に付いたのだけど、そう思う殆どの要素が控えめに抑えられていたので、結構想像とは違う感触だった(とても良い意味で)。

 大部分がレーイについてなんだけど、例えば、人間とは一線を画した存在だとか、セリアに施した能力についてだとか。多くは語らず、レーイという存在を印象深く残す為の必要最小限の肉付け程度に留めている。そんな手応え。なるべく自身を語りたがらず、また詳しく知られるのを厭う彼らしさがよく表れていたなぁと思う。

 もしレーイの本質を語るの重視でそちらの方向に傾いていたら、この物語全体に流れる静謐で優しい雰囲気の足枷になってしまっていたような気もする。余計ではないんだけど、目立たせ過ぎると容易く崩れてしまうような……だからレーイ関連の設定をあえて多用せずに描かれた辺り、バランスの取り方が絶妙で非常に巧いなと。

 「私」がレーイに捧げた『君のための物語』。これは或いは書いた彼自身の物語でもあるのかなぁ? レーイが読んて「いや、これはむしろ君のための物語だろう」なんて言葉を彼に返した……のかも知れない。