SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

逃亡刑事

[著者:中山七里/PHP研究所]

 同じ署内の刑事が別の部下の刑事を射殺した証拠を掴むも、真犯人に罠にはめられ冤罪の濡れ衣を着せられ逃亡を図って反撃の機をうかがう、と言う展開。

 味方のはずの県警組織がほぼ『敵』で、摘発対象のヤクザが利害一致で一時的に『味方』になる、みたいな状況に持ち込む、追い詰められての高頭冴子の機転には目を見張るものがあってなかなか面白い。

 終始劣勢で何度も何度も追い詰められて「もうダメだ……」な状況に追い詰められ続けるので、そこからどう逆転劇を見せてくれるのか、と言う期待の高まりが増し続けてページをめくる手が止まらなくなる。

 まあ『逆転劇』って所を拾うと、ちょっと突飛な様子も否めなかったし、最後はもうちょい余韻が欲しいとも思ったけれど、途切れる事のない盛り上がりの構築は見事なものでした。

アマテラスの暗号

[著者:伊勢谷武/廣済堂出版]

 「興味が薄くて必要な知識も乏しいジャンルに触れたらどう感じるだろうか?」みたいな気持ちで手にとって読んみました。興味の有無はさておき、知識がない所で結局はちんぷんかんぷんだったわけですが。

 ただそれでも、作中には想像以上の画像や家系図などの『資料』が膨大に盛り込まれていて、この辺りは知識も興味も薄い取っ付き難そうな初心者素人に対する配慮も含まれていたのかなあ、なんて思ったりもしました(当然ながら本来の目的は作中での仮説検証の補強材料なのでしょうけどね)。

 その懇切丁寧な解説のお陰か、「何も分からなかった」スタートから「何となく理解した気になれた」ゴールに辿り着けた実感は得られました。

 小説の物語と言うよりは、『アマテラスの真相を紐解く歴史書』みたいな様相で、『日本神話とイスラエルとユダヤ民族』の関連性の考察などは、分からないながらも面白く興味深く読めたかなと思いました。

ロクでなし魔術講師と禁忌教典

[著者:羊太郎/イラスト:三嶋くろね/富士見ファンタジア文庫]

 主人公のグレンにしても世界観の設定にしても、初っ端からめちゃくちゃ色々伏線仕込んでそうだなって印象で、まだ曖昧でハッキリ見えていないそれらがどう開示されて行くのか、ワクワクさせられる楽しみは多い。

 とりあえず、グレンに対して抱かされた印象はなかなか強烈で、良くも悪くも忘れられないと言う意味では、もう最初の段階で充分頭の中に刻み込まれてしまったような気がします。まあ彼に関しても伏せられているあれやこれやは沢山ありそうですけどね。

 ただのロクでなし無能じゃないのは分かり切っている事で、しかし単純に能ある鷹は爪を隠す的な凄味とはまたちょっと違う雰囲気もあったりして。その辺りのグレンの素性もどう明かしながら見せてくれるのか楽しみな所です。

ぎんなみ商店街の事件簿 ~Sister編~

[著者:井上真偽/小学館]

 前に読んだ『Brother編』の対となるお話で、商店街の串焼き屋の三姉妹が『Brother編』と同じ事件の謎を別の視点や立場から追って行く、と言うもの。

 両方を読んでみて「なるほど、確かにお互いの未解決な部分をうまく補い合って物語を完成させているなあ」って感じました。

 この辺りは割と予想通りな展開でしたが、こっちの三姉妹の方は思ってたより未解決で曖昧な部分があったなあって印象でした。もっとも、これは逆から読んでも同じように見えたのかも知れませんが。

 あとは四兄弟の方で謎だった人物や相関関係など、意外な接点がいくつもあった点はなかなか面白い気付きに思えたりで、両方の話が絶妙な巧さで噛み合っていましたよね。

 最後に、両方を読んで後で結局は「やっぱり一話ずつ交互に読むのが一番良かったんんだろうなあ」となりました。

ぎんなみ商店街の事件簿 ~Brother編~

[著者:井上真偽/小学館]

 この物語単体では、小規模な商店街のある町に住む四兄弟が、日常からはみ出したちょっとした事件の謎を追って解決して行くものに過ぎない。真価を発揮するのは、本書の対となる『Sister編』を読み切った後で全貌が明らかになった時。この『Brother編』と全く同じ事件が描かれなら、全く別の視点から事件を解決して行くもの、らしい。

 と言う事は、本来は一話ずつ交互に読み進めて行くのが最適な楽しみ方なのではないかなあ、と個人的には思ったのですが、片方を読み切らないと落ち着かない質なもんで結局片方から全部読んでしまいました。

 なるほど確かにどれも無事解決したように見えて、実際には各章に『未解決の謎』が残されたままになっている。この辺りは、おそらく『Sister編』を読み切れば真に物語が完成するのかなと思います。

 あと『SISTER編』の三姉妹とこの四兄弟とは、一切直接的な交流が描かれないのも特徴的と言うか、『全くの別視点からの謎解き』を意識しているようにも感じられました(学太の話の中だけには交流を示す様子もありましたけどね)。