SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

ふたたび嗤う淑女

[著者:中山七里/実業之日本社]

 前回の『蒲生美智留』が『野々宮恭子』になり変わって、前回同様に“自分では全く手を汚さず”にターゲットに定めた相手を次々に破滅させて行く。

 出世欲や名誉欲や承認欲求の増大は、こうも容易く大金に目をくらまされて身の破滅に追い込まれるのか……と、際限ない欲望と失墜からの破滅の落差に読んでいて目が回るようなくらくらとした気分に陥ってしまいました。

 自業自得と言えばそれまでですが、各章とも読み出した時点で身の破滅が確定しているので、「ざまあ」と言う気持ちが湧くよりも先に、後味の悪い苦味と恭子の“仕留め方”に対してのおぞましさの方が浮かび上がってしまいました。

 前回と比べて、恭子にしてはやけに表に立って目立ち過ぎかなと思っていたのですが、その違和感もエピローグで「そう言う事か」と納得出来ました。まあ正体不明さで言えば『彼女』の方が際立ってましたからね。

嗤う淑女

[著者:中山七里/実業之日本社]

 生活コンサルタントとして相談に乗り的確なアドバイスをしているようで、言葉巧みに相談者の心理操作や心理誘導を促し『犯罪の後押し』をしている。しかし裏を返すと、どう見ても犯罪の後押しをしているのに、実際には生活コンサルタントとして相談者の相手をしているだけにしか見えない。

 裏表を曖昧にして本性を見せず、警察の『決定的な犯罪の証拠』すら見透かして手玉に取っているのが蒲生美智留の恐るべき所。気になるのは、本編ではほとんど見せる事のなかった美智留の『深層にある本心』でしょうかね。

 これがぼやけている感じだったので、何故そんな行動を取るのかの動機的な部分がなかなか見出せなくて。保身の為という見方もあるんですけど、どうにもそんな軽く単純なものでもないような気がして……続編を追えば見えて来るのでしょうかね。

鍵のかかった部屋 「防犯探偵・榎本」シリーズ

[著者:貴志祐介/KADOKAWA]

 『密室殺人』『密室トリック』がテーマのシリーズ3作目。大体の話が、榎本が密室トリックを暴いて真犯人を暴いた所で即終了。真犯人の動機やら犯行に及んだ心情などはほとんど描かれない事から、あくまで物語の主役は『密室』なのだと言う印象が強く残る内容でした。

 そんな中で、前作に引き続き珍妙な劇団と劇団員が絡んだ話だけは、やたらと『人間臭さ』が感情にあふれて描かれていて、他の話とは随分雰囲気が違いうあって感じなんですよねえ。

 『密室』としては単純明快過ぎる配置なんだけど、この感情的な部分が浮き彫りになるような展開は結構好きだなって思いました。次でもあるのかな? 割としょーもない連中なので、榎本は手応えのなさを感じていそうですけど、面白いので再登場して欲しいですね。

狐火の家 「防犯探偵・榎本」シリーズ

[著者:貴志祐介/KADOKAWA]

 『密室殺人』がテーマのシリーズ2作目。純子ってクールビューティーなイメージがあったけど、こんな天然気質だったとは。

 榎本も天然と認識しているようだし、特に第2話で蜘蛛への恐怖心からの(心の中での)取り乱しぶりが凄くて、これが純子の“素の気質”なんだなと感じさせてくれるものがありました。

 『密室』のエピソードが4編、一口に密室と言ってもまあ色々あるもんだなあとパターンの豊富さに感心してしまいました。

 個人的に後味的な意味で一番印象深かったのは第1話、密室エピソードが特に面白かったのは第3話、変わり種で目を引いたのが第4話、と言った具合。でもまあ純子の素を存分に堪能出来た第2話が一番良かったかな。

フルメタル・パニック! アナザーSS

[著者:大黒尚人/原案・監修:賀東招二/イラスト:四季童子/富士見ファンタジア文庫]

 シリーズ最後の短編集。ずっと達哉とAS搭乗での非日常な戦場ドンパチやってたので、こうした日常の小話的なやつは妙にホッとすると言うか気楽に読めていいですね。

 主に雑誌掲載の収録分ですが、メインは書き下ろしの本編後日談でしょうかね。本編エピローグはややあっさり気味に感じていたので、そこを補完する意味では充分に満足な内容だったと思います。

 達哉とアデリーナとの新たな関係性とか、二人が離れた“現場”に携わる人たちからの手紙とか、じんわりと心に染み入る内容でした。