[著者:葉真中顕/光文社]
最初から最後まで、『被害者・鈴木陽子の物語』だったような気がします。刑事である奥貫綾乃が鈴木陽子の不審死の謎を追う展開を持ちながらも、やはり過去からの生涯をこと細かく描写してみせた鈴木陽子こそが主役のような見せ方だったのかなと。
その辺りは、真相と結末でも明確に示されていたように思いました。真実を掴む為に奔走していた彩乃の立場からすれば、最後の最後に真相に気付きかけながらも、既にどうにもならないもどかしさはあったのでしょうね。
でも、何となく彩乃にあまり悔しさや憤りが感じられなかったのは、事件を追う経緯で鈴木陽子の『本質』を理解出来てしまったから、だったのかも知れません。