SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

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手の中の天秤

[著者:桂望実/PHP研究所]

 何らかの罪に問われた加害者を、被害者や遺族が『刑務所にぶち込むかどうか』を選択する事が出来る制度がもしもあったとしたら? そんな架空の法制度を背景に、被害者側と加害者側の状況を報告する“橋渡し”的な役割を担う、とある係官達の経験と実績を追って行く物語です。

 コンビを組む若手で研修生の井川は、正義感にあふれていて被害者や加害者の事を理解して支えになりたい気持ちを抱いている。一方でベテランの指導役・『チャラン』とあだ名される岩崎は、常にいい加減で投げやり気質で対応も適当かつ簡潔に対応している。対局の二人を軸に、主に井川がチャランを受け入れられない所から、次第に考え方に変化を見せて行く所が一番の見所と感じました。

 もしも現実にそんな制度があったら……いや多分施行は無理かな。色んな意見が噴出してまとまらない気がします。ただ、触れるのが難しい制度だからこそ、井川やチャランのような橋渡し的存在が重要であり必要だったのかも知れません。

 最後に特に印象に残ったチャランの言葉、『人それぞれだよ』について。井川を含め関わった多くの人達は、その適度な距離感を保つ適当さに救われたのだと思いました。