SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

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最後の医者は桜を見上げて君を想う

[著者:二宮敦人/カバーイラスト:syo5/TOブックス]

 病気の完治を最後の最後まであきらめずに奇跡を信じて戦う、『“病気と向き合う”正義の医師』福原。患者の望みを最優先で真正直に聞き入れる事で、家族や他の医師から疎まれる、『“患者自身と向き合う”死神』桐子。

 かつて医大の同期で仲間同士だった二人の医師は、真っ向から対立する互いの主義主張によって、勤務する同じ病院で意見の相容れない衝突を繰り返し続けている……という医療現場の物語。

 正確には、真正面から正論を突き付けて時に患者や家族に“言葉で傷を負わせる”桐子に対して、その振る舞いが許せない福原が副医院長の立場から彼を失墜させようとしている構図です。

 もっとも、この物語は二人の医師の対立そのものよりも、『末期患者が何を望み最後にどんな処置を願うのか?』について最も重視して描かれているように思いました。

 フィクションではありますが、特に回復が見込めないと宣告された患者の心理面に関しては、非常に現実味を感じさせる息を飲むような描写でした。「もし自分がそうなったらどう選択をするか……」をどうしても考えさせられてしまう。目を背けたくても背けられませんでした。