[著者:石川博品/イラスト:syo5/ガガガ文庫]
ひとつの街を舞台に、深々と雪が降り積もる情景描写の美しさに深い溜息が漏れる。そして、“特殊な状況下”で“何も特別な事などない”ような、幸久と美波の淡く儚く消え入りそうな関係の描写に触れて再び溜息が漏れました。
本来ならば、「この異常気象ってどうなってんの?」とか「ライフラインは壊滅的なんじゃない?」みたいな所に意識が向くはずなんですが、読んでいて不思議と何にも不安や焦燥みたいなものは抱かなかったんですよね。
幸久と美波が『冬の情景』を受け入れていて、この物語が最初から『どうにも動かせない事実』だと断言するように世界を描いているように見えたから、なのかも知れません(終盤、『冬にそむいて海の藻屑となる』みたいな予感を思わされて、そこだけは焦りが沸き上がってましたが)。
異常気象の件は結局分からないまま。でもそれでいいんだと思います。二人の行く道の障害にはなっていないし、結局自然現象なので人の力じゃどうにもならないものだから。