[著者:井上真偽/幻冬舎]
ラストシーンに仕掛けられていた、とある“どんでん返し”の一幕、途中でピンと来た人ならもしかしたら気付けたのかなあ。私はその仕掛けられていた方向の“可能性”にはラストシーンを見るまで全く思い至れませんでした。
ドローン操縦士の高木が真相を知るまで抱いていた、目と耳と言葉の機能を失った要救助者の『超常的な感覚』というものを、彼と同調するように信じていたからかも知れません。
ある意味ミスリードとも言えそうな仕込みだったのでしょうかね。途中での“疑惑”の持たせ方も、そこから発せられる疑心暗鬼と要救助者を信じたい気持ちとの葛藤の描き方も実に上手いなあと思いました。
過去のトラウマからの精神的な脆さを露呈した高木が、要救助者で障がいを持つ中川博美の心の強さに触れ、最後の最後まで諦めない意志を取り戻して行く。
閉鎖空間での緊張感あふれる極限状態の中での救出劇と、最後の最後で明らかになる現場で起こっていた真相語り、非常に面白かったです。もう一度読み返してみると、初読はまた違った見え方や手応えが得られるのかなと。