SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

さよなら、転生物語

[著者:二宮敦人/TOブックス]

 もしも、自分が望む最高の環境に転生する事が出来たら? 何度でも元の世界に戻れて何度でも転生出来て、何度でも繰り返し自分の好きな環境で転生生活を体験出来たら? その転生先が気に入れば、現実世界を捨てて転生世界に永住する事かできるとすれば?

 現実社会に生きる事に絶望している人には、たとえ信じられなくても思わず食い付きたくなる夢のようなお話。一見うさん臭くても裏はありません。本当に願った人たちの『転生願望』を叶えてくれていました。

 でも、自分が望んだ世界なのに、そこに元の世界を捨ててまで永住したいかと選択を迫られると、強烈なためらいや葛藤に襲われてしまう。今回の中で転生を望んだ誰もがそうなっている。この物語の特に面白い所で、かなり深く考えさせられる状況に置かれると言うのも非常に印象的でした。

IT社長が勇者に転生した件について

[著者:高山環/Independently published]

 Web連載の書籍化タイプの異世界転生モノ……かと思いきや、実はかなりの変化球的な“異世界転生モノの皮をかぶった何か”でした。

 大きなネタバラシになるので詳しくは控えますが、そう言った物語が二転三転する仕掛けを含めて、重要な場面で不意を突かれて驚かされる事が何度もあって、表向きの異世界転生的な内容にしても、裏に潜む真の要素的な内容にしても非常に面白かったですね。

 初心を忘れて傲慢に振る舞うIT社長が、異世界転生的な経験を経て、少しずつ良い方向へ心変わりして行く姿なども印象に残りました。

 あと、IT社長がビジネススキルを駆使して窮地を切り抜ける辺りは、現実で仕事に有効活用出来るものが含まれていたり、自己啓発的な側面があったようにも感じました。

プロパガンダゲーム

[著者:根本聡一郎/双葉社]

 とある大手広告会社の採用最終選抜試験は、『戦争をすべきか否か』の決定を宣伝合戦で競う『プロパガンダゲーム』だった。8人の最終候補者を『政府側(戦争推進)』と『レジスタンス(戦争阻止)』に分け、100人の選別ざれた一般傍聴者に訴えかける効果的な宣伝を考え仕掛け、最終投票で得票の多かったものが勝利する、と言った内容。

 ただし『勝利=採用』と言うわけではない。「じゃあ一体何でこんな事をさせるの?」と、読みながら当然の疑問を抱くわけですが、ここが物語最大の仕掛けであり、結末に大きく関わって来る事でもあります。まあフィクションとは言え、どう見てもまともな企業採用試験とは言えないので、その辺の違和感は薄々感じ取れるのかなと思います。

 『どちらが勝つのか?』を予想しながらの情報戦は実に見応えがありました。更に裏に隠された企業側の思惑と、採用試験を受けた側の推理洞察が絡み合い結末に至るまでの道程も、最後までどうなるか分からない目の離せない展開で非常に面白かったです。もしかしたら本書を通じて、この世にあふれる『情報の強い引力』に踊らされないように、と自分に言い聞かせる事が出来た……のかも知れません。

手の中の天秤

[著者:桂望実/PHP研究所]

 何らかの罪に問われた加害者を、被害者や遺族が『刑務所にぶち込むかどうか』を選択する事が出来る制度がもしもあったとしたら? そんな架空の法制度を背景に、被害者側と加害者側の状況を報告する“橋渡し”的な役割を担う、とある係官達の経験と実績を追って行く物語です。

 コンビを組む若手で研修生の井川は、正義感にあふれていて被害者や加害者の事を理解して支えになりたい気持ちを抱いている。一方でベテランの指導役・『チャラン』とあだ名される岩崎は、常にいい加減で投げやり気質で対応も適当かつ簡潔に対応している。対局の二人を軸に、主に井川がチャランを受け入れられない所から、次第に考え方に変化を見せて行く所が一番の見所と感じました。

 もしも現実にそんな制度があったら……いや多分施行は無理かな。色んな意見が噴出してまとまらない気がします。ただ、触れるのが難しい制度だからこそ、井川やチャランのような橋渡し的存在が重要であり必要だったのかも知れません。

 最後に特に印象に残ったチャランの言葉、『人それぞれだよ』について。井川を含め関わった多くの人達は、その適度な距離感を保つ適当さに救われたのだと思いました。

ふたりの余命

[著者:高山環/Independently published]

 もしも『死神』と名乗る幽霊に突然『余命』を宣告されたら。もしもその余命が『あと一年』『あと二年』の短命だったら。もしも嘘みたいな死神の存在や、死神が告げる余命宣告も疑いようのない事実だと認めざるを得ない状況を理解してしまったら。

 そんな『もしも……だったら』の波が、残酷な現実として突き付けられる。宣告を受けた高校生の椎也と楓は、互いの余命を知りながら、支え合うように自分の『残された時間』と向き合って行く事になる、と言った物語。

 特に大きな興味を抱いたのは二点。ひとつは最後の時間までをどう生きて行くのか? もうひとつはどんな結末を迎えるのか? 仮に自分がそうなったらどうなるか……と考えてみて、少なくとも椎也と楓みたいに受け留めて受け入れて自分のやりたい事を貫いて生き抜く、みたいな事は出来ないと思いました。取り乱して冷静になれないか、余命宣告を絶対拒否で受け入れられないか、のような気がします。

 そう言った自分の気持ちを重ね合わせながら、二人を追っているような感覚でした。結末に関しては、読み手の受け取り方次第で結構賛否は分かれるかも知れません。個人的には椎也と楓が積み重ねて出来た絆を思って、納得出来たかなと言う感じでした。