SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

エミリの小さな包丁

[著者:森沢明夫/KADOKAWA]★

 恋人に騙されたのを職場で広められた事が原因で仕事を失い、お金もなく居場所すら失ってしまった主人公・エミリ。両親との関係も訳ありで疎遠状態、親類に頼るあてもなく、アメリカに住む実兄に事情を打ち明けて勧められたのが、漁村に住んでいる疎遠の祖父の元で世話になる事だった。

 これまでの都会生活から一変して、のどかで退屈な漁村の環境に身を置き、祖父・大三とのぎこちない同居生活を送り始めるエミリ。全く馴染めない所から、大三や彼と顔なじみの村民たちの不器用ながらも優しい人柄に触れて、エミリの中で徐々に何かが変わって行く音が響き始める……。

 おじいちゃんが住む田舎へ帰ったような気分、漁港特有の潮の香り、田舎に身を置く事で感じるゆっくりと流れる時間……読んでいて心地良い気分で満たされました。孫娘と不器用なおじいちゃんとの心温まる交流の数々も凄く良かったですね。

 あと、ラストの描写もとても印象に残るもので。ちょっと“誤解していた部分”が良い方向へ訂正されたと言うか、エミリには隠されていた真相を聞いて、最後に嬉しさと安堵の笑みが漏れました。