[著者:雲雀湯/イラスト:シソ/角川スニーカー文庫]
みんなが何かしらの複雑な過去と事情を抱え込んでいて、誰かがそれぞれの心の領域に踏み込もうとする事で、過去の影響が戸惑いやざわついた落ち着かない気持ちを引き起こしてしまう。
田舎の月野瀬に帰郷した事で、隼人と春希の心により強い過去からの『声』が響いてしまっていたような印象でした。それが良かったのか悪かったのか、どちらとも言えない何とも言えない空気感で、時折息が詰まるようなもどかしさも感じたりしました。
読む前の予想では、沙紀の隼人に対する思いと、沙紀の思いに気付いている春希の思いが複雑に絡んだ展開がメインになるかと思ってたんですけど……。実際には春希と沙紀の関係は、隼人を思う気持ちを互いに知りながらも極めて良好で、ほとんど面倒にこじれなかったのは意外だったかなあと。
もっと根本的な根深い過去の心の痛みが、ねっとりと重く絡み付くような、特に春希は嫌な形で影響を受けていたように映りました。この辺りの春希の事は、たまに偶然表面化して精神が崩れそうになるのがずっと気になってるんですよね……。