SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

いなくなれ、群青

[著者:河野裕/イラスト:越島はぐ/新潮文庫nex]

 とにかく舞台である階段島の実態が現実離れしていて謎だらけなもんで、詳しく知るにしてもどこから手を付けたらいいのやら……と、途方に暮れてしまうような展開でした。

 七草の性格から既に諦めの境地に達していたので、なんとなく無難な現状維持に流されているような、島全体がそう言った雰囲気でしたね。そんな空気に一石を投じたのが、真辺の存在と彼女の性格からの行動でした。

 階段島の空気感からは、真辺の存在はハッキリと異質で異物。ただ、七草にとって放っておけない事情があり、その事情が彼自身の内面や相容れない真辺と向き合う事になり、やがて物語を大きく動かして行く事になります。

 終盤で階段島の真実を知って「なるほどね」と納得は出来ましたが、根本的な問題が解決したわけではなくて。そもそも解決出来るのか? みたいな難題が浮き上がったりで、これからの階段島での七草や真辺の立場はどうなって行くのでしょうね。

白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます

[著者:やしろ/イラスト:keepout/TOブックス]

 前世の記憶を失った状態だった異世界転生者が、5歳児で突然前世の記憶が完全に戻った所からの始まり。

 貴族の傲慢さと無能を兼ね備えた愚かな肥え豚幼児だったのが、前世の記憶を頼りにあがいた結果、きれいなで聡明なぽっちゃりお坊ちゃまに生まれ変わっちゃいました。無能なので使い方に気付けず眠らせていたチート能力に目覚めた、と言うべきでしょうかね。

 生まれ持ったものなのか記憶の復元で得たのか、『神々に愛される能力』も備わっていて、更に自分の立場と最適な立ち振る舞いも心得ているので、もう5歳児にしてほぼ完成された感がありました。

 あと気になると言えば、鳳蝶が弟のレグルス君に殺される瞬間を未来視した事について。何も根拠はないのに鳳蝶はそうなると確信を抱いているようで、でも現状の様子では到底あり得ない未来なので、どうなるのかなあと言う感じです。

 そこまで辿り着くにはまだまだ時間が必要なので、瞬間的な事実は変わらずとも、鳳蝶が見た光景そのものの意味が『弟に殺される』解釈とは変わって来るのかも知れません。

もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた

[著者:ひつじのはね/イラスト:戸部淑/ツギクルブックス]

 現実世界の日本で命を落として、超絶チート2歳児に異世界転生した所からの始まり。最初に気になったのが、主人公の前世の最期の状況がハッキリしなかった点。あえて含みを持たせて曖昧にしているようにも見えましたが……さて。

 断片的な描写から判断すると、主人公が面倒を見て守っていた幾つもの存在が、天災によって主人公と同様に命を落として、救えなかった悔恨が異世界転生への力となった、みたいな感じなのでしょうかね。

 異世界での物語の進行とは、今の所あまり繋がりは見られませんでしたが、生命魔法をアレンジして使いこなせたり、その事が縁で精霊と交流出来たり契約を結べたりしている所は、なにか関連性があるのかも知れません。

 あと、とりあえず「どう見ても2歳児の強さじゃねえよ」なのは、異世界転生チート無双のお約束事。『もふもふ要素』は意外と薄かったですが、今後ルーみたいなもふもふな獣も色々登場して来るのかも?

ウィザードグラス

[著者:根本聡一郎/双葉社]

 他人の端末機器の『検索履歴』を閲覧出来る端末機器『ウィザードグラス』の存在が引き起こす、世界規模の陰謀と騒動。

 もしも、全世界が情報発信から個人情報を握られ、強大な組織から常に監視され続け、一方的な支配下に置かれるような状況に陥ったとしたら? そんな現在社会に起こり得そうな“現実味”を、鳥肌が総立ちする程に強烈に意識させる物語でした。

 フィクションと断っておきながら、米国巨大IT4企業『GAFA』と、NSA(アメリカ国家安全保障局)が手を取り合って『世界人口総監視・情報総支配計画』を先導すると言う、なかなか挑戦的かつ挑発的な内容だなあと思わされました。

 あとは、こう言った支配下に置かれた状況での、『もしもSNS発信による拡散、炎上が意図的に操作されたものだったとしたら?』の恐ろしさを見せつけられた感じでした。

 最も効果的な対抗策は『ネット断ち』なのでしょうけど、分かっていても現実では「無理だよね」となってしまう。物語の中ながら、現実での情報発信との向き合い方を色々考えさせられてしまいました。

ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~

[著者:餅月望/イラスト:Gilse/TOブックス]

 悪徳帝国皇女の転生やり直し物語。主人公のミーア姫、実は転生しても本質的な性格はあんまり変わってません。一度目の人生で失態を演じて処刑された恐怖の記憶が残っている為、なんとかその運命を回避しようと足掻いているだけ。

 ただ、心の中でじたばたもがいた末に出た言動が、何故かことごとく周囲の人達から好意的に受け入れられてしまう。割とみっともないミーアの『心の声』を聞いていると、「転生してもしょーもないお姫さんだなあ」と呆れ混じりになってしまうんですが、とにかく周囲がミーアにとって都合よく拾ってくれるんですね。

 で、勝手に『ミーア姫殿下ってすげえな……』と勘違いで好感度と評価を爆上げしてくれる。この“ミーアと周囲の落差”が非常に見応えあって面白い所ですよね。

 正直、今のミーアは皆の勘違いで助けられているだけで、決して聡明でも才覚があるわけでもない。でも、無意識に無自覚に勘違いを起こさせて味方に引き寄せる事こそ、彼女の本質的な魅力であり才能なのかも知れません。