[著者:東野圭吾/講談社]
実際には『閉ざされて』はいないし『雪の山荘』でもないのに、いつの間にかそうだと信じ込ませるような誘導のさせ方があまりに見事過ぎでした。
七人の参加者達は、本来ならいざとなれば簡単に逃げられるし、電話ですぐに外部へ助けも呼べる。でも、そうは出来ない、真犯人が仕組んだ心理的誘導が容易くそうはさせない、みたいな“束縛の術”はなかなかに凄かったですね。
読んでいても登場人物の誰かに指摘されなければ、本当に『雪の山荘の密室』に居るのだと気付けず錯覚させられてしまう程でしたから。
雪の山荘も、閉ざされた状態も、殺人事件も、実は舞台装置と演技である……と思わせておいてから、ただし殺人に関してだけは「本当に?」と演技ではない『真の惨劇』に疑念を抱かされてしまう。
それは演技なのか? それとも現実なのか? 登場人物たちの駆け引きに合わせて揺れ動く真相までの道程、非常に手応えのある面白さでした。