SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

貘 ―獣の夢と眠り姫―

[著者:長月東葭/イラスト:東西/ガガガ文庫]

 第15回小学館ライトノベル大賞『優秀賞』受賞作。

 寝ている間も、“夢の中で現実世界と同等の活動が得られる”と言う夢のような世界。この辺りの設定面は、物語の中でそこまで深い掘り下げが無くて、もっと見せて欲しかったなあ、と惜しい気持ちもあったり。それだけ魅力的な世界観と感じました。

 物語自体は、正直「うーん」な印象で微妙でした。話が進んで盛り上がってる雰囲気が大きくなるに連れて、あまりに複雑で難解に絡まり過ぎていて、「ちょっと何言ってるのか良く分かんない」ってなって、理解が付いて行けなくなってしまいました。

 トウヤが巻き込まれた夢の事件と、彼の姉の後遺症と、姉に似た容姿のメイアの関係性と。なんか結局語りたかった事も分かったような分からんような、どうにも曖昧な手応えで。『睡眠時も夢の中で活動出来る』と言うあまりに魅力的過ぎる設定に、夢の中の犯罪を絡めた要素を、もっと分かり易い描写で見せて欲しかったなあと。

ミモザの告白

[著者:八目迷/イラスト:くっか/ガガガ文庫]★

 幼馴染みの男子。幼少期から気心の知れた、相棒のような自分と『同性』のあいつが、実は『身体は男性』で『心は女性』だった。自ら周囲に秘密を暴露した幼馴染みと、一体どう接して行けばいいのか? 必死でもがいて答えを探しながらも、徐々に自らの思考に迷い、混乱の沼に身を沈めて行く……。

 色々触れたい事は浮かんでも、どこにどう触れたら良いのか、なかなか述べたい事がまとまらないですね。非常に重くて、深くて、繊細な問題。咲真の度重なる感情の取り乱し振りに触れて、こっちも同調して全部投げ捨てて逃げ出したくなる程でした。

 西園や世良の動向に対して、咲馬の視点だと嫌悪感や異質さを含んだ、“受け入れ難い何か”にどうしても感じてしまう。でも、話が進んで行くに連れて、嫌悪や異質も納得出来るものへと変化して行くんですよね。あれだけ咲馬に同調して、感情的に高ぶっていたはずなのに、ちょっとした驚きでした。

 咲馬がどれだけ理解しようとしても、やっぱり西園の発言はいちいちムカつくし、世良の思考は理解不能で受け入れ難くて嫌いだ、となる。でも、相手にとって他人の自分が『それは違う』と断定して否定するのは間違っている、それをやってはならないのかも知れない……と変化して行くんですよね。

 じゃあ咲馬にとっての汐はどうか? この問題に深く関わる人ほど、よりハッキリと心を取り乱している。泥沼にはまって行きそうで怖いんですが、どんな結末であっても最後まで見届けたいですね。

シュレディンガーの猫探し3

[著者:小林一星/イラスト:左/ガガガ文庫]

 令和の姉・飛鳥の足跡と、『シュレディンガーの猫探し』の本を求めて、手掛かりのあるくりすの地元『猫又村』へと赴く事に。そこで、オカルト染みた怪奇現象と、その裏に隠された真実を探るべく、焔螺が迷宮落としにする為の謎解きに挑む。

 最初は村に隠された秘密を提示しながら、徐々に飛鳥との関連に繋がって行く展開でした。そこから何が導き出されたかと言えば、結局“飛鳥は一体何をしたかったのか?” その『意志』みたいなものが、明確にされたんじゃないかなと思いました。

 一応、飛鳥と『シュレディンガーの猫探し』の本が絡んだ『時間跳躍』の謎については、今回のラストで焔螺の口から解き明かされていました。ただ、最後結構駆け足で語られていたせいか、ちょっと分かり難さがあったかなあと。結構行き来して読み返したんですけど、それでも難解で充分理解出来たかは怪しいです。それでも、飛鳥が何を為して、何を令和に伝えたかったかは、しっかりと掴めていたと思います。

既刊感想:

お嫁さんにしたいコンテスト1位の後輩に弱みを握られた2

[著者:岩波零/イラスト:阿月唯/MF文庫J]

 表向きは“同じ声優を推す者同士のヲタ活”と称して、本当の狙いは“気になる男子との距離を自然に縮める”事。もしそうだとしたら、優衣奈ってめちゃくちゃしたたかで計算高い?

 ……とか言っちゃうと嫌な女っぽいイメージ与えてしまいそうですが、決してそんな事はないです。色々と面倒臭い性癖を持つ大翔に好意的に付き合っているとても良い子。

 ただ、明らかに『付き合っている状態』に持って行こうとしてますよね。しかもかなりの力技で。大翔が優衣奈の思惑に無頓着なせいもあって、『付き合っている振り』のはずがいつの間にか『既に付き合っている関係』になりつつある。しかも全く違和感を抱かせない雰囲気で。

 もうね、ずっと「これもう付き合ってるも同然でしょ?」「この状態が付き合ってないなら、付き合ってる状態って一体何なのさ」ってツッコミ入れてましたよ。傍から見てもお似合いの二人なので、あとは当人同士がどう認識を固めて行くか、でしょうかね。

既刊感想:

元カノとのじれったい偽装結婚2

[著者:望公太/イラスト:ぴょん吉/MF文庫J]

 「め、めんどくせえ……」としか言いようが無い。晴と理桜の関係性が立場的にも恋愛感情的にも面倒臭いのは、もう最初っから分かっているにもかかわらず、どうしても言わずにはいられませんでした。ホントに、何で別れちゃったんだよこの二人。

 とは言え、面倒臭いのも慣れて来れば、触れずにはいられない程“クセ”になる。晴と理桜“だけ”が互いに勘違いしているじれったさも、段々堪らなってくる。早いとこ誤解を解いてくれって気持ちと、このままずっと面倒臭い状況でニヤニヤさせてくれって気持ちと、今はせめぎ合ってる最中です。

 新キャラで理桜のライバル的立場の千百合は、結局勝ち目は無さそうかな。彼女にその自覚はあるようだし。そもそも誰が見ても両想いなのは、分かり易過ぎるくらい分かり切っている事実だもんなあ。

 二人にとっては、秋乃さんがラスボスな存在となるんでしょうかね。この人は相当こじらせたがり体質な女性っぽいので、関わっても余計面倒臭くなるのは目に見えている。でも、向こうから仕掛けて来たので、避けたくても無視出来ないでしょうねえ。

既刊感想: